緩和ケア

  • 緩和ケア(非がん患者さま)
現在、緩和ケアを必要とする人の3人に2人は、非がん患者さまです。緩和ケアは、がん患者さまから非がん患者さま、小児の患者さまへと、また、緩和ケア病棟だけではなく在宅等へと多様化しています。
緩和ケア

諏訪中央病院 鎌田實名誉院長

「あらゆる人と場所に届けられる基本的ケア」という価値を築くとともに、「人権としてのケア」(プラハ憲章、2012年)であるという新たな基本理念に発展しています。非がん患者さまの軌道と〈緩和ケア〉について所見をお話しします。


A.脳卒中患者さまの軌道

脳卒中では、10年以上生存する方も21%存在します。発作後40%は中程度の障害を、15〜30%は中度の障害を残します。脳卒中の急性期を脱した患者さまでは、その発作で死に至ることはほぼありません。ただし、脳卒中後遺症患者さまの主な死因は、脳卒中の再発、心血管系疾患の合併症、誤嚥性肺炎であり、これらの予防が重要になります。
〈緩和ケア〉
脳卒中急性期の50%以上に、嚥下障害が出現します。急性期に肺炎を発症した人には、その後も肺炎の発症リスクが高くなります。終末期の脳卒中後遺症の患者さまにとっても、摂食環境の調整や嚥下訓練、口腔ケアは重要な緩和ケアの一つです。

脳卒中患者さまの軌道

B.慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さまの軌道

COPDの終末期は急性憎悪を繰り返します。そして、全身的機能が低下をたどります。急性憎悪は最適な治療と管理、包括的呼吸リハビリテーションを受けることによって予防できる可能性が高く、適切な管理が非常に重要となります
〈緩和ケア〉
COPDの最大の苦痛は呼吸困難です。終末期の呼吸困難は、がんに匹敵すると言われるにもかかわらず、十分な緩和ケアが提供されていないようです。COPDの呼吸困難に対しては、下肢運動療法を中心とした包括的呼吸リハビリテーションが有効です。 しかし、疾患が進行するにつれ運動療法の実施が困難となるため、薬物療法、筋呼吸マッサージ、栄養療法を継続させながら、モルヒネや酸素の使用など積極的な緩和ケア的手技を加えていきます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さまの軌道

C. ALS患者さまの軌道

ALSは、発症後数ヶ月から十数ヶ月後には仕事や日常生活が困難となります。そして、最終的には両手足の麻痺や呼吸筋の麻痺などにより、人工呼吸器や経管栄養を選択しなければ生命を維持することができなくなってしまいます。ALSの予後を改善する治療は、人工呼吸療法、胃瘻などの経管栄養、リルゾールの内服によります。例えば、リルゾールは平均余命を25〜30%程度を延長します。ALSにおいては、胃瘻は体重の維持や生存期間延長に有効で、早期に行うことが望ましいです。
〈緩和ケア〉
モルヒネは、ホスピス入院中のALSの呼吸困難の軽減に対して約8割で有効です。ALSでは、球麻痺の進行のため経口投与できなくなる患者さまも多くいます。胃瘻などの経管栄養を行っている場合は、モルヒネ水か細粒の剤型の徐放剤を用います。経管栄養を行っていない場合は、持続皮下注を行います。

D.慢性心不全患者さまの軌道

慢性心不全は、経過中に何度か急性憎悪を経験します。急性憎悪により心身細胞がダメージを受け、心機能は急激に低下してしまいます。急性期を脱すると心機能は部分的に回復します。しかし、次に急性憎悪を起こすと、一層心機能の低下を招いてしまいます。
〈緩和ケア〉
心不全という臓器不全群では、標準的治療の継続が緩和ケアとなります。症状緩和のためにも積極的な心不全の治療の継続が必要です。心不全の呼吸困難に対して有効なのは、ルーブ利尿薬、ニトロ製剤と少量のオピオイドで、これに次いで強心剤、呼吸訓練や運動虜法、次に酸素療法です。末期心不全患者で緩和すべき他の症状としては、痛み、うつ状態、だるさなどがあげられます。痛みについては、狭心痛に亜硝酸製剤を用いるといような原因に応じた薬剤とオピオイドの使用が推奨されます。うつについては、SSRI、SNRIや三環系抗うつ材、認知行動療法やカウンセリングなどの心理的介入が有効です。心不全のだるさについては、明らかな原因となるもの(感染、睡眠時無呼吸、貧血など)を取り除く以外に有効な治療法は見つからず、症状緩和に苦慮するところです。

慢性心不全患者さまの軌道

E.末期腎不全患者さまの軌道

透析を選択しない末期腎不全患者さまでは、eGFRが10mL/min以下となった後の生存期間は、平均11ヶ月で、おおむね血液データで予後を推測できます。一方で、要介護高齢の透析導入後の予後は、若年の透析導入患者さまに比べるとよくありません。透析導入後に透析前の機能が維持されていたのは13%で、透析実施が急速な機能低下の原因となっている例が多く見られます。
〈緩和ケア〉
末期腎不全では、細胞性免疫、液性免疫の低下、易感染性(感染リスクが高い状態)が見られます。肺炎、尿路感染などが頻繁に見られ抗菌薬治療を併用することが多いです。腎不全の進行により、尿量が少なくなると、体液貯留による症状が出現して、胸水、浮腫などが見られるようになり、強い呼吸困難を訴えるようになります。酸素吸入を行いつつ、余分な点滴は行わず、利尿薬の静注を行うと、過剰な体液が減少し、呼吸困難が次第に和らぐこともあります。一方で、昏睡状態で深大呼吸が認められる場合は、もはや苦痛はないことをご家族に説明し、無意味な治療を避けるようにします。

F.認知症を患っている方の軌道

認知症の基礎疾患のほとんどを占める4大認知症があります。
・アルツハイマー型認知症
・脳血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭型認知症
は、いずれも数年から10年の経緯で進行性に機能が低下する疾患です。

訪米では、末期の認知症に体する経管栄養は、著明な予後の延長は期待できず、わずかな延命のために延命治療を行いことは、患者さまの苦痛を増大させるため、基本的には実施すべきではないと考えられています。

認知症においては、細やかな観察と丁寧なケアが、緩和ケアとなります。

認知症を患っている方の軌道

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